2-8『先入観と油断・エルフの場合』



それから三人は町の市場へと出て、買出しに取り掛かった。
この町を出れば、しばらく物資の補充はのぞめなくなるため、
二手に分かれて、必要なものを負担にならないギリギリまで買い集めて回る。

燐美の勇者「よし、薬の類はこんなところかな?」

そして今、薬品店の建物から、燐美の勇者と院生が出てきた所だった。いくつかの用品店を回ったため、燐美の勇者が持つ袋は荷物で膨らんでいる。

院生「あとは、なんでしたっけ?」

燐美の勇者「乾燥食品の買い足しだね、それで最後。そこを回ったら麗氷と合流して、早めに夕食にしよう」

そう言いながら、燐美の勇者は歩き出そうとする。

燐美の勇者「とっ!?」

しかし荷物を持ち直しながら歩き出そうとした燐美の勇者は、
荷物の重さに引っ張られて少しバランスを崩した。

燐美の勇者「まずっ!」

院生「あ、燐美さん!」

倒れかけた燐美の勇者の後ろに、とっさに院生が回りこむ。そして燐美の勇者の体は、院生によって抱きとめられた。

燐美の勇者「っとー、ごめんごめ……あ……」

その時、院生の腕の中で燐美の勇者が見たのは、彼女を見つめる院生の凛とした瞳だった。

院生「大丈夫ですか、燐美さん?」

燐美の勇者「へ?……あ!うん、あ、ありがと……」

ぎこちない返事をしながら、燐美の勇者は院生の体から起き上がった。

院生「あ、いけない荷物が」

燐美の勇者が倒れたときに、薬の包みがいくつか落下してしまったらしく、院生はそれを拾い集めにかかる。

院生「こっちにも、ああ、あっちにも落ちてる……あわわ」

通行人に謝りつつ、せかせかと包みを集める院生。しかし焦るばかりで、とても手際よく回収できているとは言い難かった。

燐美の勇者「……ぷ、あはは」

院生「!、ど、どうしたんですか?」

燐美の勇者「ああ、ゴメンゴメン」

院生に謝罪しながら、燐美の勇者は手早く落下した薬の包みを回収する。

燐美の勇者「いやね、院生さんて変わってる娘だなーって思ってさ」

院生「へ?」

燐美の勇者「ああ、気を悪くしたらゴメンね?でも、院生さんって背は高めだし、顔立ちもキリッとしてて、正直かっこいい女の人じゃない?それなのに、なんていうか……性格や行動はかなりかわいいからさ」

院生「かわッ!?」

院生は顔を真っ赤に染める。

院生「か、からかわないで下さい、燐美さん!」

燐美の勇者「えー?ボクは本当にかわいいと思うよ?」

院生「そ、そんな事ないですよ……」

院生は赤くなった顔をうつむけ、集めた薬の包みを握り締める。

燐美の勇者「あはは、ごめんごめん。さ、早く買出しを終えて、麗氷と合流しようか」



麗氷の騎士「よし、買い漏らしはないな。勇者様達はまだか……」

一方の麗氷の騎士は、買出しを終えて一足先に待ち合わせ地点で待っていた。

麗氷の騎士「少し早かったか?分担した量は変わりないはずなんだが……」

麗氷の騎士が呟いたその時だった。

麗氷の騎士「とッ!?」

突然、麗氷の騎士に何者かがぶつかって来た。
視線を降ろすと、ローブを纏った人物が麗氷の騎士の眼の前にいた。

麗氷の騎士「き、君……危ないぞ!」

眼の前の人物に注意するも、目の前の人物はひどく息を荒げている。

麗氷の騎士「お、おい君?大丈夫か……?」

様子のおかしいその人物に、麗氷はとまどいつつも声をかける。

?「はぁッ……た、助けてくださいッ!」

次の瞬間にその人物は、叫びながら麗氷の騎士にすがり付き、その顔を上げた。

麗氷の騎士「!」

フードの中に見えたのは、端麗な顔立ちの金髪の女性。
そしてフードの端に見えたのは、尖った笹のような耳だった。

麗氷の騎士(エルフ……!?)

ぶつかって来た人物の正体、そして突如求められた助けに麗氷の騎士は困惑する。

エルフの女性「お願いです!どうか、どうかお助けを!」

麗氷の騎士「落ち着くんだ!一体どうしたというんだ?」

麗氷の騎士はエルフの女性の肩を掴み、酷く動揺する彼女を落ち着かせる。

エルフの女性「す、すみません……私の、私の旅の仲間が――人売りにさらわれたんです!」

麗氷の騎士「な……なんだって?」

エルフの女性の言葉を聞き、麗氷の騎士はより困惑した。

エルフの女性「あなたも旅の御方とお見受けします!腕に覚えがおありなのでしたら、どうかお助けを!」

しかし麗氷の騎士の心情に構わず、エルフの女性は必死に言葉を並べ、助けを求めてくる。

麗氷の騎士「待って!落ち着いて、まずはいきさつを話してくれ。そしてここの警備兵に報告を……」

エルフの女性「ダメです!人売り達はあと少しで町を出てしまう!そうなれば私の仲間が!」

エルフの女性は麗氷の騎士の提案を拒否する。そして不安と焦燥に染まった顔で、麗氷の騎士に押し迫った。

麗氷の騎士「く……!」

その様子に麗氷の騎士は狼狽する。

麗氷の騎士(どうする?私一人では危険かもしれない……せめて勇者様と二人で……!)

麗氷の騎士は周辺を見渡す。しかし周辺に燐美の勇者達が来ている様子は無かった。

エルフの女性「お願いします!ああ、このままではッ!」

麗氷の騎士「ッ!……分かった、場所を教えてくれ!」



麗氷の騎士はエルフの女性に案内され、人気の無い方へと走って行く。

エルフの女性「着いた……こ、この先です!」

たどり着いた先で、エルフの女性が示したのは路地の入口だ。
人一人が通れるほどの狭さで、エルフの女性は路地の向こう側を指し示す。

エルフの女性「この先に馬車が止まっていて、私の仲間が……!」

麗氷の騎士「分かった、私が先に行く」

麗氷の騎士が先に路地へ入り、後からエルフの女性が続く。路地の反対側へたどり着き、麗氷の騎士は路地から少しだけ顔を出す。出た先は、両脇を建物に囲われた薄暗く細い道だった。そして、路地の出入り口から少し離れた所に、一台の馬車が止まっていた。

麗氷の騎士「あれか」

エルフの女性「はい……」

馬車の周辺には、見張りと思わしき者達の姿がある。
そして、馬車の後ろにはエルフの少女が一人、そして人間の女の子が二人。
三人は皆、手枷をはめられ、猿轡を噛まされている。

麗氷の騎士「ひどい……あのエルフの娘が君の仲間かい?」

エルフの女性「はい、そうです……」

麗氷の騎士「しかし、どうしてこんな事に?」

エルフの女性「わかりません……私達は一昨日この街に入ったんですが、昨日からあの子の姿が見えなくなって。探し回っていたら……」

麗氷の騎士「エルフだという事で、目を付けられたのか?しかし仮にも町中でこんな事を……」

エルフの女性「私もいくらなんでも町中でと思ったんです。でも、その油断のせいでこんな事に……!」

今にも鳴きそうな声で言いながら、エルフの女性は両手で顔を覆う。

麗氷の騎士「起こってしまった事はしょうがない。それより彼女を助け出さないと」

麗氷は再度路地から先を覗き、周囲の状況を観察する。

麗氷の騎士(見張りは三人か……行ける)

そう判断した麗氷の騎士は、エルフの女性に振り返る。

麗氷の騎士「私が見張りを片付ける。安全になるまで君はここにいるんだ、いいね?」

エルフの女性「はい……」

エルフの女性に言い聞かせると、麗氷の騎士は路地を飛び出し、馬車に向けて走り出した。
馬車の周りの見張り達がこちらに気付く。しかし彼等は、突然表れた麗氷の騎士に対して、少し驚いたような表情こそ見せたものの、武器を構えたりなどの動作は一切見せなかった。

麗氷の騎士(?)

麗氷の騎士は不可解に思いながらも、抜剣し、見張りの者達の間近まで迫る。
すると彼等はようやく顔色を変え、剣を抜こうと鞘に手をかけた。

麗氷の騎士(反応が遅れただけか……馬鹿者、もう遅い!)

だが相手が剣を抜く前に、麗氷の騎士は相手の懐まで踏み込み、剣を大きく振った。

凪美兵A「あがぁッ!?」

振り払われた剣は見張りの男の腹面をばっさりと切り裂いた。
切り裂かれた男は鮮血を噴出して倒れる。

凪美兵B「なッ!?クソッ!」

側にいたもう一人の兵士が、起こった事態に驚愕しつつも抜剣。
剣を麗氷の騎士に向けて、切りかかってくる。

麗氷の騎士「はッ!」

だが攻撃が麗氷に当たることは無かった。
麗氷の騎士は地面を踏み切り跳躍、兵士の真上を通り越した。

凪美兵B「な!?」

そして男の後ろの建物の壁に足を着き、反転。背後から兵士の体を切り裂いた。

凪美兵B「ぎゃぁッ!?」

地面に着地し、麗氷の騎士は最後の一人を睨む。

凪美兵C「ひッ!?」

麗氷の騎士「お前で最後ッ!」

最後の兵士に切りかかろうと、麗氷の騎士は剣を振り上げながら走り出す。
だが突如、真上から、麗氷の騎士の眼の前に別の人影が現れた。

麗氷の騎士「!」

兵士と麗氷の騎士の進路上に割って入ったその影は、麗氷の騎士の振り下ろした剣を受け止めた。

麗氷の騎士(新手!?)

凪美兵C「隊長ッ!」

後ろに居る兵士が現れた男をそう呼ぶ。
どうやらこの男が隊長らしい。
一度剣を交えた後、麗氷の騎士と新手の兵士はお互い後ろへと飛び退く。
麗氷の騎士は飛び退いた直後、さらに後ろへ大きく跳躍した。
背後にある建物の二階付近まで跳躍した彼女は、壁に足を着くと、
剣を構えて、水泳の蹴伸びのように体を撃ち出した。
麗氷の騎士の体は、地面にいる兵士を突き刺すべく直進する。
だが、剣が兵士の体を貫こうとする直前、兵士の姿が突如消えた。

麗氷の騎士「!?」

麗氷の騎士は即座に剣を引き、地面に着地する。
視線を上に向けると、向かいの建物の三階付近に兵士の姿があった。

麗氷の騎士「な!?」

麗氷は再度地面を踏み切り跳躍、上空へ逃げた兵士を追いかける。
だが、敵の兵士は麗氷と同じように建物を蹴り、未だ空中にいる麗氷の騎士目掛けて切りかかって来た。

麗氷の騎士「ッ!しまった!」

軽率な行動だったと思いながら、麗氷の騎士は剣撃を受ける。
麗氷の騎士は衝撃で突き飛ばされたが、反対側の建物の壁に足を着き、体勢を立て直した。

麗氷の騎士(迂闊だった。しかし、この動き……まさかこいつ、加護を受けている!?)

先程から、麗氷の騎士や相手の兵士が見せている超人的な動きは、
教会などの大魔法を発動できる機関から、加護を受けて者のみができるもの。
そして、その加護を受け、尚且つ何らかの力として物に出来るのは、
勇者の血を引く者にしかできない事だった。

麗氷の騎士(勇者の血を引くものが人売りに……?なんて世の中だ!)

考えながらも麗氷の騎士は再び体を撃ち出し、兵士に切りかかる。
だが、今度は敵の兵士に剣撃を受け止められ、ダメージを与える事は出来なかった。

麗氷の騎士「クソッ!もう一度だ!」

その調子で、お互いは建物の間を行き交い、何度か剣撃を交わす。
しかし、両者共に決定打と成り得る一撃を決める事はできなかった。

麗氷の騎士(く、このままでは埒が空かない……隙ができるが、攻撃強化をかけるしかないか)

今度は相手の兵士が空中に体を撃ち出し、切りかかってくる。
しかし麗氷の騎士は、その攻撃を受け止めず、跳躍してその場から逃げ出した。

凪美隊長「!」

突如逃げに入った麗氷の騎士を、敵は怪訝に思ったが、武器を構え直し、麗氷の騎士を追う。

麗氷の騎士「貫く力、切り裂く力、力の加護を刃とこの腕に――」

麗氷の騎士は敵の追撃を回避しつつ、空中を逃げ回りながら、攻撃強化を詠唱する

麗氷の騎士「……よしッ!」

詠唱が完了したタイミングで、建物の壁に足を着ける。
振り返ると、敵は麗氷の騎士を追って、空中へ飛び出した所だった。
その空中に居る敵に向って、麗氷の騎士は自らの体を撃ち出した

凪美隊長「!」

逃げ回っていた麗氷の騎士の突然の反転に、敵は空中で剣を構え、防御の姿勢を取る。

麗氷の騎士「はぁぁぁぁぁぁッ!」

麗氷の騎士は敵の構えた剣に、思いっきり剣撃を振り下ろした。
強化魔法をかけた剣の破壊力は、敵の剣をいとも容易く真っ二つに砕いて見せた。

凪美隊長「ッ!がぁぁぁッ!?」

同時に加えられた衝撃は敵兵士を吹き飛ばし、吹き飛ばされた敵兵士は背後の建物の一階付近に激突。
壁が煙を上げて崩落し、敵兵士は屋内へと叩き込まれた。

麗氷の騎士「はぁ……!やったな……」

手ごたえを感じながら、麗氷の騎士は地面に着地。
着地した麗氷の騎士は、墜落した商会隊長にとどめを刺すべく。崩れた壁に近寄ろうとした。

凪美兵C「う、動くなッ!」

しかし、その時唐突に背後から声がした。

麗氷の騎士「な!」

振り返った麗氷の騎士の目に飛び込んできたのは、先程の残っていた兵士が、
エルフの少女にナイフを突きつけている光景だった。

麗氷の騎士「こ、この卑怯者ッ!」

凪美兵C「黙れ!そこから動くな!剣を遠くへ投げて腹這いになれ!」

麗氷の騎士「く……」

麗氷の騎士は言われたとおりに剣を地面に投げる。

凪美兵C「よし、そのまま地面に伏せろ……!」

体を屈め、まず膝を地面に突く麗氷の騎士。
そして手を突く振りをして、地面に落ちていた小石を手に握った。

麗氷の騎士「……そこだッ!」

石を掴むと同時に麗氷は体を起こし、兵士に向けて瞬時に投げ放った。

凪美兵C「ッ!うぐぁッ!?」

兵士の短剣を握る手に石が命中し、短剣が地面へと落ちる。
麗氷の騎士はそれと同時に兵士の間近まで駆け込み、兵士の腹に膝を叩き込んだ。

凪美兵C「ぐぅッ!?」

叩き込まれた兵士は吹き飛び、地面に叩き付けられた。
痛みに悶絶しており、しばらくは起き上がれないだろう。

麗氷の騎士「よし……君、大丈夫か?」

麗氷の騎士は、座り込んでいたエルフの少女の前に屈みこみ、
付けられている猿轡を外してやる。

少女エルフ「んぷ……は、はい……大丈夫です……」

麗氷の騎士「そうか、よかった……」

少女エルフ「はい――あんたのせいで顔に傷がつかなくて、本当によかった」

麗氷の騎士「は?」

唐突に吐き出された台詞を、麗氷の騎士はすぐには理解できなかった。

少女エルフ「――負に捕らわれ、膝を折れ」

そしてエルフの少女が小さく言葉を紡いだ瞬間、
麗氷の騎士を突如、異常なまでの脱力感が襲った。

麗氷の騎士「な……!?」

麗氷の騎士は体を支える事ができなくなり、膝を突き、地面に突っ伏した。

少女エルフ「まったく……顔に当たったらどうしてくれるのよ」

一方のエルフの少女は、嵌められた手枷をいとも容易くはずして立ち上がった。

麗氷の騎士「うぁ……な、なんだ……これ」

エルフの女性「なかなかに素敵でしたよ、魅光の王国の騎士様?」

麗氷の騎士「……え!?き、君は……!」

そして少女エルフの脇から声と共に現れる人影。
それは助けを求めてきたはずのエルフの女性だった。

エルフの女性「名演技だったわよ、少女エルフ」

少女エルフ「ありがとうございます、エルフリーダー様」

少女エルフは、エルフの女性の褒め言葉に猫なで声で答える。
エルフリーダーとはこのエルフの女性の事らしい。

麗氷の騎士「ど……どういう事だ……」

エルフリーダー「あら、いちいち説明しなきゃ分からないかしら?
         あなたは騙されたって事。
         私達は、あの人達に協力して一芝居うったって分け。
         まー、正直不本意ではあったんだけどね」

エルフリーダーは気に入らなそうな表情を見せつつ、先程麗氷の騎士に殴り飛ばされた兵士を指し示した。

凪美兵C「ッ……う……」

痛みに悶えていた凪美兵Cだったが、腹を抑えながら、どうにか立ち上がる。
その時、被っていた帽子が脱げ、帽子内にしまいこんでいた長い髪と、
つばに隠れていた可憐な目元が露になった。

凪美兵C「うぅ、隊長……!」

彼女は凪美隊長の叩き込まれた建物へと駆け寄り、崩れた壁の中へ叫ぶ。

凪美兵C「隊長!大丈夫ですか、隊長!」

凪美隊長「……大丈夫だ」

屋内に積もった瓦礫の中から、凪美隊長が瓦礫を押しのけ這い出てきた。

凪美兵C「隊長、怪我は!?」

凪美隊長「後でいい……おい!一体どういう事だ!?」

這い出てきた隊長は、自分の負った傷の確認もせずに、エルフリーダーへと詰め寄る。

商会隊長「手はずでは捕縛対象が馬車に気を奪われているうちに、
      あんたらが確保するはずじゃなかったのか!?」

エルフリーダー「あらごめんなさい。ちょっとこの娘の技量がどれ程のものか、
         見ておきたかったものだから。
         後で、勇者の子を捕まえる時に役立つかもしれないし」

凪美隊長「貴様……ッ、ふざけるな!そのために我々を実験台にしたというのか!?」

凪美隊長はエルフリーダーの胸倉を掴み挙げる。

エルフリーダー「だって、あんなに簡単にやられちゃうなんて思わなかったもの。
        もう少し粘ってくれるとおもったのに、残念だわ」

凪美隊長「言わせておけばッ!――痛……!」

激昂する凪美隊長だったが、痛みに襲われ体勢を崩す。

凪美兵C「隊長、ダメです!先に傷の手当を!」

凪美隊長「ああ……」

凪美隊長は凪美兵Cに付き添われ、馬車の方へと歩いて行った。

少女エルフ「あいつ、汚い手でエルフリーダー様のお召し物を……!」

少女エルフはエルフリーダーの襟元を直しながら、凪美隊長たちを睨む。
一方、凪美兵Cも凪美隊長に肩を貸しつつ。
エルフリーダー達を振り向き、睨みつけていた。

麗氷の騎士「闇魔法……貴様等、ダークエルフ……?」

麗氷の騎士が声を発し、エルフリーダー達の意識は彼女へと向く。

少女エルフ「はーあ?ダークエルフ?あたしたちのどこが、あんな汚い肌の連中に見えるのよ?」

エルフリーダー「肌を見ての通り、私達は正真正銘、純潔のエルフよ」

麗氷の騎士「じゃあなぜ、こんな……私を騙したのか?勇者様を捕らえるとは、どういう……」

エルフの女性「いちいちうるさい騎士様ね。私達にも色々事情があるの、
        あなたに全部説明する義理は無いわ。少女エルフ」

少女エルフ「はい」

麗氷の騎士「ッ!やめ、んぐッ!?」

麗氷の騎士は、少女エルフに猿轡と手枷を着けられ拘束される

エルフの女性「ああ、そうそう一つだけ教えてあげる。あの子供二人は偽者じゃないわ。
        本当に売られていくみたいね」

麗氷の騎士「んん……!?」

エルフリーダーの視線を追うと、馬車のすぐ傍に、地面に座り込む二人の女の子の姿が見えた。
少女たちは、不安と恐怖がない交ぜになった顔で麗氷の騎士を見つめていた。

エルフの女性「あなたの素敵な救出劇も、全て嘘ではなかったという事よ。
        どう、少しは慰めになったかしら?」

麗氷の騎士「んぐ……むぐぅッ!」

エルフの女性「はいはい、お怒りなのは分かったわ。ねぇ!この子、とっとと運んじゃってくれない?」

凪美隊長へ声をかけるエルフリーダー

エルフリーダー「ねぇ、ちょっとぉ?」

凪美隊長「分かってる!」

凪美隊長は怒気の混じった声を返した。
屈む凪美隊長の足元には、切り殺された兵士の亡骸があった。

凪美隊長「凪美兵D、あの騎士と子供達をを馬車に乗せておけ。俺は近くの詰め所まで応援を呼びに行く……」

凪美兵C「はい……」

凪美隊長「くそ……こんな所で。よりにもよって、こんな不名誉な任務で……!」

亡骸の目を閉じる凪美隊長。

エルフの女性「あらら、慈悲深いのね」

エルフリーダーが凪美隊長の背後から遺体を覗き込み、ふざけた態度で言った。凪美隊長はそんなエルフリーダーを睨みつける。

エルフリーダー「あら、そんな怖い顔しないでよ。あなたのその姿に、きっとあなた達の神様も心打たれてるわ。そして二人とも天国に導いてくださるわよ」

そんな事を言うエルフリーダーだが、口調には真剣味など欠片も感じられない。

凪美隊長「……行き先は地獄だけさ……」

凪美隊長は立ち上がり、エルフリーダーに振り返る。

凪美隊長「俺達も、あんた達もなッ!」

そしてエルフリーダーに指先を突きつけ、帽子を直しながらその場から立ち去った。

エルフリーダー「……ふん、人間ってやっぱり気に入らないわ」

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